真夜中のSAには不思議な人がいた。
一人は明らかに免許のない小僧で、大きなバッグを持ってベンチにひたすらたたずんでいた。ヒッチハイカーという感じにも見えないが、何を待っているのか。
もう一人はおじいさんで、一晩中本を読んでいた。車で寝ればいいのに、なぜ?
そして、寝袋とメットを抱えてベンチにたたずむ俺。
スナックコーナーのトン汁定食の写真を見ながら、腹をグーグー言わせていた。まだ朝飯の時間じゃない、と我慢するのがまた辛い。
寝たり起きたりを繰り返しながら、なんとか朝の4時までたどり着いた。長い夜だった。もう眠れなくなった。
出発しよう。幸い雨も上がった。
トイレの洗面所で顔を洗う。歯も磨く。誰もいないことを確認して、頭も洗う。そして、汗拭きシートで体を拭き、Tシャツを着替えて、やっとスッキリした。
念願のトン汁定食を食べ、朝日の下、ストレッチをしてバイクにまたがり、SAを出た。大変だったが、凄く思い出に残る夜だった。
すぐ次のSAで高速を降りると、料金所のおじさんに不審がられた。そりゃ一区間に一晩かかったんでは当然だが、意外に時間を見ているものなんだと知った。
その後、榛名山経て妙義山に到着。誰もいない駐車場で、ついに耐え切れなくなり、地べたに寝転がって30分ほど寝た。
(榛名山へ向かう途中)
さらに碓氷峠を経て秩父へ向かう。
寝不足はいかんともしがたく、大好きなワインディングロードさえ苦痛に感じ始める。気温は34℃。灼熱と寝不足と疲労でぼろぼろになった。
午後2時半、秩父の道の駅「荒川」で休憩。何気なく裏の渓谷を眺めていると、雨が降っているような線が見え始めた。もちろん雨は降っていない。
これはヤバイことになっているのかもしれない。
日陰のベンチで、また30分ほど寝た。
目を覚ますと、通り雨が道を濡らしていた。
今日は富士山が見えるところまでいきたかったが、もう限界だと思った。
地図を見て、この先の甲府で宿をとることにした。もう一泊野宿したりしたら、確実に事故を起こす。
秩父往還道の雁坂トンネルを抜け、甲府に向け下っていくと、石和温泉のビジネスホテルの看板を発見。迷わず石和温泉に向かうことにした。一秒でも早くベッドに横になりたかった。
探すのももどかしく、「宿泊案内(無料)」に飛び込んで、場所を聞いた。
この時、“こういった案内所で斡旋しているのは旅館や観光ホテルであって、ビジネスホテルは関係ないこと”、“旅館や観光ホテルは1人の宿泊は歓迎されないこと”を知った。勉強になる。幸いおじさんが親切にビジホの場所を教えてくれて、程なく到着することが出来た。
そこがツーリングではじめて泊まったビジネスホテル。一泊4500円。
フロントのおばちゃんがバイクを玄関脇に置かせてくれて、「見ててあげるから」と言ってくれた。親切で料金も安いし、部屋も比較的きれい。もちろんテレビも無料。“当たり”のホテルだ。
部屋に入ると、心の底からホッとした。屋根と壁と布団があるってのは、なんてすばらしいことなんだろう!
ホテル一階のコンビニで弁当を買い、テレビを見ながら食べた。
荷物を整理して、シャワーを浴びて、6時台のアニメを見ながらベッドに横になった。
7時のニュースを見てから・・・・と思いながら、あっという間に深い眠りに落ちていったのだった。
何の不安もなくフカフカのベッドで横になっている幸福感は言葉に出来ないほどすばらしく、今でも忘れられない。
翌朝7時半まで、一度も途切れることなくグッスリ。こんなに良く寝たことは、後にも先にも記憶にない。おかげでその日は絶好調で、念願の箱根、伊豆を走り回ることが出来た。
すっかり野宿に懲りて、その夜は伊東のビジネスホテルに泊まった。
そこでもホテル探しに苦労したが、それはまた別の話。